【インタビュー】ニューヨーク在住ひろこさんが語る、子どもの“場面緘黙”との向き合い方
- Manami
- Jun 15
- 6 min read
海外で子育てをしていると、言語や文化の違いに加え、子どもの発達や心の問題にどう向き合うか悩むことも少なくありません。
今回は、ロンドンからニューヨークへ移住し、息子さんの場面緘黙症と向き合いながら乗り越えてきた、ひろこさんにお話を伺いました。

ニューヨークでの生活とお子さんのこと
—— まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?
3年前にロンドンからニューヨークに引っ越してきて、現在はブルックリンに住んでいます。
息子はもうすぐ7歳になります。
今はファーストグレード(小学1年生)に通っていて、9月からセカンドグレードに進みます。
息子は日本には住んだことがなく、言語的には英語が強いです。
“話さない”息子を見て気づいた違和感
—— 幼児期にセラピーを受けていたと伺いましたが、きっかけは何だったのでしょうか?
ロンドンで通っていた保育園で、3歳を過ぎても先生や友達と話さない状態が続いていました。
でも、家では普通におしゃべりするんです。
不安が強く、新しい場所を嫌がったり、レストランに入れなかったり、入ろうとすると、感情が大きく爆発することもありました。
ニューヨークに引っ越してきて、「環境が変われば改善するかも」と思っていたのですが、まったく変わりませんでした。
アクティビティにも参加しないし、クラスに入るのに30分くらいかかってしまって…。
これは何かあるなと感じて、「場面緘黙症(Selective Mutism)」について調べました。
アメリカでの診断と支援を求めて
—— どのようにして専門家を探されたのですか?
「Selective Mutism」と英語で検索したら、アメリカに専門団体があることを知りました。
その団体のウェブサイトで、自分の住んでいる地域(ニューヨーク)の専門医やセラピストを検索できる仕組みがあり、そこで近くの先生を見つけて連絡しました。
5日間の集中セラピーで大きな変化
—— セラピーの内容や変化について教えてください。
最初は5日間の集中プログラムを受けて、「先生と話す練習」からスタートしました。
すると、ある時を境にパッと喋り出して、まるで壁を乗り越えたような感じがありました。
その後は「そんなに重くないケースかもしれない」とも言われました。
その集中セラピーの後は、「Child Mind Institute」というニューヨークの機関に引き継がれて、アフタースクールプログラムで週に何度か通いました。
そこでは子ども一人ひとりにセラピストがついて、会話を助けながら環境に慣れる練習をしました。
日常生活に“ソーシャル練習”を取り入れて
—— 家庭でも何か工夫されたことはありますか?
公園で知らない子と自然に遊べるように、シャボン玉やおもちゃをたくさん持って行って、他の子どもたちを巻き込んで遊ぶようにしました。
息子が「おもちゃの貸し主」になってもらうことで自信がついてきました。
また、お店で自分で注文させるなど、日常の中でも小さなチャレンジを積み重ねました。
地域とのつながりから生まれた「友達クラブ」
—— 現在は「Brooklyn de Kosodate」というグループも運営されているとか?
はい。もともと別の方が始めたグループですが、今は私を含めて2人で運営しています。
息子の社交性を伸ばしたいという思いから「友達クラブ」という遊びの会を始めました。
いらなくなったおもちゃを持ち寄って、子ども同士が自然に関われるような場づくりをしています。
「親が心を開くと、子どもも変わっていく」
コロナ禍だったこともあって、公園でもなかなか人と関わる機会がなかったんですけど、やっぱり私自身がまず「開く」努力をしないと、子どもも開いていかないんだなと感じました。
だから意識して、公園に行ったらほかの親御さんとちょっとでも会話するようにしてみたりして。
自分が閉じてしまうと、子どももそれを見て「外の人と関わるのは怖いことなんだ」と思ってしまうんじゃないかと。
逆に、私が誰かと楽しそうに話している姿を見ると、「喋っても大丈夫なんだ」っていう安心感につながるのかなって思っています。
やっぱり、ある程度は「親が変わらないと子どもも変わらない」と思いますね。
セラピー以外の日常でできる“さりげない支援”
——ご家庭や公園以外で、日常的に心がけている支援などはありますか?
まず、キンダー入学直後から学校に付属しているアフタースクールに通わせていました。
学校の時間中って、意外と子ども同士で自由に話す時間って少ないんですよね。
でもアフタースクールなら、同じ学年の子たちと遊びながら関係を築けるので、少しずつ友達ができるようになっていきました。
最初は週に3回通わせていました。
また、本人が興味を持っている分野でつながれたらいいなと思って、サイエンスクラブにも入れてみました。
そこでも新しい友達ができて、世界が広がったように思います。
そして、たとえば“1日だけのキャンプ”みたいな、新しいけど一時的なチャレンジも取り入れるようにしています。
「ちょっと怖いけど、やってみる」というように、子どもと一緒に小さなステップを踏んでいきました。
「話せるようになった」その先にあるチャレンジ
一度話せるようになっても、新しい場面ではまた戻ってしまうこともあります。
それがこの特性の特徴でもあるので、できるだけ「避けない経験」を意識しています。
「チャレンジ=大きなこと」ではなくて、ほんのちょっと緊張する場面に慣れていく、そういう小さな経験を重ねるようにしていますね。
「話さない子」への理解は、まだまだこれから
——アメリカでの理解や支援体制について感じることはありますか?
ニューヨークやイギリスのロンドン方が、場面緘黙への理解や支援体制は進んでいると感じます。
専門団体もあるし、教育現場との連携もある程度は取れている。
でも、それでも「まだまだ知ってもらえてない」という現実もあります。
実際、他の国——たとえばカナダやニュージーランド——から、セラピーを受けるためにニューヨークに来ている子もいます。
それくらい、限られた地域にしか支援の仕組みがないんです。
まずは「こういう状態がある」ということを、もっと多くの人に知ってもらうことが第一歩かなって思っています。
悩む親御さんへ伝えたいこと
今、日本語学校でもアシスタントをしています。
そこで改めて気づいたんですけど、やっぱり“緘黙傾向”のある子って少なくないんですよね。
家庭では日本語、学校では英語っていうバイリンガル環境の子たちは、どこかで言葉が出にくくなる場面があって…。
私の息子と同じように、緊張して黙ってしまう子が日本語学校にもいます。
そして、子どもが「嫌だ」「怖い」と感じることを全部避けてしまうと、それが習慣になってしまうこともあります。
大切なのは、「守りすぎないこと」「大事にしすぎないこと」で、「ちょっとだけチャレンジ」を一緒にしてみるということが大事だと思います。
ーーひろこさん、ご協力ありがとうございました!
記事作成者 (Manami Palmini ![]() 講師経歴
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